「ふと、」頭をかすめた職場のモヤモヤを、
あなたの知らない扉をそっと押し開けて、
すっきり解消させるブログです。
今夜の話題は…
夜行フェリー(ferry)へのご乗船、
ありがとうございます。
この便は、
「プライベートが足りない」号です。
貨物を積み上げ次第、出港いたします。

企業等へ就職すると、日常の風景が様変わりします。
学生であれば、授業料等を支払って
教育サービスを受ける立場ですが、
従業員になれば、役務(サービス)を提供して、
給与をもらう立場に入れ替わります。
働く業種や職種、雇用形態、職場の雰囲気にも
よりますが、仕事にまつわる時間は、
少なくありません。
定刻の起床(寝坊)、朝の身だしなみ、
往復の通勤、職務の遂行、出張、取引先の接待はもとより、
ビジネス用品のショッピングや、
ストレス解消のための施設利用なども、
広く仕事絡みの時間です。
普通の従業員にとって、
プライベートな時間といえば、
職場を離れて帰宅するまでのせわしない時間と、
疲れを癒やす所定休日ぐらいです。
しかも、その限られた時間帯ですら、
共に過ごす相手側が不都合であったりと、
プライベートな時間がもの足りないと感じることは、
しばしばあると思います。
そこで今夜は、フェリーの展望デッキで、
「仕事とプライベート」について、
思いをめぐらしてみましょう。
それでは、出港いたします。

Table of Contents
1「時間」軸からみた服務規律
手始めに、堅苦しいようですが、
「雇用契約」から出発しましょう。
雇用契約は、法律上、次のように規定されています。
〇 民法(明治29年法律第89号)
第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して
労働に従事することを約し、
相手方がこれに対してその報酬を与えることを
約することによって、その効力を生ずる。
同条には「労働に従事する」とあり、
通常、企業が定める就業規則に、
「服務規律」の章が規定されています。
もしくは、就業規則の一部として、別途、
「服務規程」が設けられることもあります。
服務規律の内容は、企業で働く上で、
・ 無断欠勤をしないように、
・ 内部秘密を漏洩(ろうえい)しないように、
・ 企業の施設や物品を私物化しないように
など、ありふれた決まり事ですが、
服務規律に違反した場合、
懲戒処分を受けることもあります。
2 幻の就業規則(案)
そこで試しに、幻の就業規則(案)として、
服務規律に関する諸規定を
思いつくままに創作してみました。
特に、プライベートな事柄に関連する
「職務の専念に関する遵守事項」を、
念入りに書き込んでいます。
第3章 服務規律 (抄)
(服務の基本)
第16条 従業員は、会社の一員としての自覚と責任感
を持って、職務を誠実に遂行しなければならない。
2 従業員は、職場の秩序及び環境を維持し向上
させなければならない。
3 従業員は、時間の有効な活用を意識しつつ、
職務に精励しなければならない。
4 従業員は、業務上の指揮命令に従うとともに、
他の従業員と相互に協力しつつ、
自らの職務に専念しなければならない。
5 従業員は、社会人としてのルールを守り、
適切なマナーを心がけなければならない。
6 従業員が本条から第20条までの規定に
抵触した場合は、懲戒処分の対象とする。(職場の秩序及び環境の維持・向上に関する遵守事項)
第17条 (略)(職務の専念に関する遵守事項)
第18条 従業員は、職務への専念ついて、
次の事項を遵守しなければならない。
① 勤務時間中は、上長の指揮命令に従い、
職責に応じて、職務に専念し邁進すること。
② (遅刻、早退、無断欠勤等に関する事項 略)
③ 勤務時間中、みだりに職場を離れたり、
責務を怠る行為をしないこと。
④ 勤務時間中、やむを得ない場合を除き、
私用の外出や面会をしないこと。
⑤ 勤務時間中、緊急を要する場合を除き、
スマートフォン、携帯電話等の機器を用いて、
私用の会話(メール等を含む。)をしないこと。(秘密の保持及び信用の維持に関する遵守事項)
第19条 (略)
3 誰のための時間?
「えっ!こんなにがんじがらめなの。」と、
目を疑ったに違いありません。
いや、その前に、読んだだけで、
幻の就業規則(案)の「服務の基本」(第16条)では、
「時間の有効な活用を意識し」(同条第3項)とし、
「職務の専念に関する遵守事項」(第18条)では、
「職場離脱、職務懈怠、私用外出・面会、
スマホ等による私用の会話・メール等」
(同条第3号から第5号まで)
を、事細かく禁じています。
なぜ、こうした事細かな順守事項を定めている
のかと言えば、それは、
「 勤務時間中は、寸分の隙(すき)もないほど、
職務に専念し邁進してほしい。」
という企業のストレートな思い、換言すれば、
「 プライベートな時間を、微に入り細に入り、
取り除きます。」
と、表明しているからに他なりません。
労働者である従業員は、
指揮命令を受けて使用される者として、
企業と実質的な使用従属関係にありますので、
まさに労働時間は、〔自らのための時間〕
でなく、
〔所属する企業(他者)のための時間〕
と整理されます。
4「両立」のテーマに「時間」軸をはめ込む
現在の雇用政策の一分野として、
「仕事と生活の調和」、「ワークライフバランス」、
「職業生活と家庭生活の両立」といった、
「両立」のテーマがあります。
この政策課題を、個人の問題に落とし込もうと
するときには、「時間」軸を用いて
視覚化(Visualization)することが効果的です。
例えば、「仕事と生活の調和」に、
「時間」の文言を加えると、
「仕事時間と生活時間の配分」
に置き換わります。
〔仕事時間〕=〔所定労働時間〕+〔所定外労働時間〕
ですので、プライベートな時間と重なるのは、
主に〔所定外労働時間〕の方です。
そうすると、
「仕事時間と生活時間の配分」は、さらに、
「所定外労働時間とプライベートな時間の配分」
に変形できます。
「仕事時間と生活時間の配分」を、
誰がための時間という観点から
眺(なが)めると、
「〔他者のための時間〕と〔自らのための時間〕の配分」
となり、双方は両立し得ない時間なので、要旨、
〔他者の時間〕vs.〔自らの時間〕の奪い合いの構図
であることに、すぐに気がつきます。
冒頭で、
「ふと、仕事中、プライベートがもの足りない。」
と感じたのは、その大小関係が、
〔自らのための時間〕<<〔他者のための時間〕
となっていたためでしょう。
5 起業は「時間」軸を一転させる
さてそれでは、従業員が起業して
フリーランス(起業家、経営者)となったとき、
先ほどの「時間」軸は、どうなるのでしょうか。
また、お堅く法律の話からしますと、
雇用契約ではなく、委任契約に切り替わります。
〇 会社法 (平成17年法律第86号)
(株式会社と役員等との関係)
第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、
委任に関する規定に従う。
雇用契約ではないので、フリーランスには、
就業規則、その中の服務規律に関する規定が
適用されません。
先程の「仕事と生活の調和」は、
従業員のときと同様に、
「仕事時間と生活時間の配分」
に置き換わりますが、自らの裁量により、
仕事内容や働く時間を決めることができますので、
〔仕事時間〕≠〔労働時間〕
です。そうすると、
「〔自らのための時間〕と〔自らのための時間〕との案分」
となり、双方は両立し得る時間なので、要旨、
〔自らの時間〕&〔自らの時間〕の兼ね合いの構図
であることに、たやすく気づきます。
この場合、フリーランスは、
双方の時間を調整できるので、
「仕事と生活の調和」、「ワークライフバランス」
の状態を、格段に成し遂げやすくなります。
これは、プライベートな時間が満ち足りた状態を、
作為的に創り出せることを意味しています。
「両立」という雇用政策の課題は、本来、
フリーランスや起業家、経営者が成し遂げられる事柄を、
実質的な使用従属関係にある労働者についても、
否応なく実現しようとする政策であることが、
みえてきます。
6「時間の所有者」の扉
このようにみてきますと、
従業員が所属する組織の業態や規模にかかわらず、
労働者として働く限り、
〔他者の時間〕vs.〔自分の時間〕の奪い合いの構図
の枠組みから免れることはできません。
ただ、政府が用意した両立支援に関する制度を利用したり、
マホやパソコン等を用いて通勤時間や休憩時間を効率的に活用して、
プライベートな事柄を充実させる工夫もできます。
他方、労働者を保護する法制度から一歩飛び抜けて、
〔自らの時間〕&〔自らの時間〕の兼ね合いの構図
の枠組みに切り替えることもできます。
ただ、起業をめぐるリスクは、
ほとんど自己責任となります。
ふと、仕事中、プライベートがもの足りない
と感じたら、「時間の所有者」の扉を、
やんわり押してみましょう。
きっと、あなたらしい未来が適(かな)い
始めるに違いありません。
そろそろ、下船の時間が近づいてきました。
当航は、最終の定期便となります。
次のご乗船の機会をお待ちしています。
それではまた、近いうちに
お会いしましょう。
