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【第6回】ふと、職場を「一身上の都合」で去った同僚に戸惑いを感じたら 

5 min

 職場のモヤモヤを「すっきり」させるブログ、
職場の扉」のひとときが、めぐってきました。
 MC(master of ceremony)こと、

テラボ(terrabo)です。

ふと、」頭をかすめた職場のモヤモヤを、
あなたの知らない扉をそっと押し開けて、
すっきり解消させるブログです。 
 今夜の話題は…

 夜行フェリー(ferry)へのご乗船、
ありがとうございます。
 この便は、「一身上の都合」号です。

 貨物を積み上げ次第、出港いたします。

 仕事勤めをしていると、
職場の同僚が辞める場面を目にすることも、
希ではありません。
 若者に限っても、新規大卒就職者の約3割が、
就職後3年以内に離職する世情です。

(注)新規学卒就職者の離職状況
   (令和2年10月30日厚生労働省公表)

 ところで、従業員が提出する退職願(又は退職届)に、
「一身上の都合により」の文言を記入すると、

雇用契約上、
自己都合(労働者本人が申出をした場合)による退職」
を意味することになります。

 「一身上の都合により」の文言は、
退職願などの定番フレーズとして、
テンプレートに既に書き込まれているので、
自己都合による退職の際には必ず記入するもの

だと思い込んでいる方もいらっしゃるでしょう。

 むしろ、
「自己都合退職である旨を明らかにするために、
双方が了解の下、

「一身上の都合により」の文言を差し入れている。」
と考えたほうが実務に近いかも知れません。

 職場の同僚が辞める際、懇意にしていなければ、
その退職理由を知る由(よし)もありませんし、
それまで面識のあった同僚が、

一身上の都合でサッと辞めてしまうと、
「職場で何かあったのかな」と、

ふと思ってしまいます。

 そこで今夜は、フェリーの展望デッキで、
この「一身上の都合」について、
思いをめぐらしてみましょう。
 それでは、出港いたします。

1 「一身上の都合」の主旨 

 その文字面に目を向けると、

「一身上(いっしんじょう)」の
身上」は、「(み)の上(うえ)」で、
先頭に付いている「」が「一方の」、
より具体的には、「(勤め先と関わりがなく、)自らの
を意味するので、「一身上の都合」とは、
「(勤め先の事情ではなく、)
 自らの身の上に係る本人やその家庭の事情

となります。

「~により」は、「~を理由として」の意味なので、
一身上の都合により」を言い換えると、
本人やその家庭の事情を理由として
となります。

 例えば、

「もともと希望していた仕事への転職や起業」(本人の事情)、
「配偶者の転勤に伴う遠方への引っ越し」(家庭の事情)、
「要介護状態となった親の世話」(同上)

など、勤め先には関わらない事情となります。

 一見、シンプルですが、この先が、
一筋縄ではない所。実は、

「 職場の人間関係が気まずく、
 何かにつけ仕事が停滞してしまう。」
「 仕事の内容が日々単調で、やる気にならない。」
「 年がら年中、上司がセクハラまがいのことをする。」
「 直属の上司がトンチンカンな業務指示をするので、
 残業しても業務が終わらない。
  相談しようとしても、既に帰宅している。」

など、「勤め先の労務管理に関わる事柄」
であっても、従業員が、「一身上の都合により」
として退職願を提出すれば、
自己都合による退職の扱いとなります。

2 勤め先も退職理由を知りたい  

 勤め先としては、
「一身上の都合により」(本人やその家庭の事情)
と記入されていても、退職理由の本音が
「勤め先の労務管理に関わる事柄」である場合には、
気をつけなくてはなりません。

 なぜなら、退職手続上、自己都合の退職として、
サラッと見逃してしまうと、
職場環境の改善や適材適所の配置、
人材の育成などの好機を失うことに
なりかねないからです。

 若手従業員が、「一身上の都合」により、
次々と辞めていく様子を思い浮かべてみてください。
 人事・労務担当者からすれば、「何事か。」

というより、職場の恐怖映像です。

 そこで勤め先は、辞めようとする従業員に、
その退職理由の本音を

訊(き)き出そうとすることがありますし、
逸材なので慰留したい、というケースもあるでしょう。


 ところが法律上、従業員には、
退職理由を詳細に伝える義務がありません。
 仮に、上手く返答を引き出したとしても、
「勤め先の労務管理に関わる事柄」ではなく、
「本人やその家庭の事情」しか話そうとは

しないでしょう。
(注)「転職理由(退職理由)のホンネとタテマエ
   (人事のミカタ) 参照 

3 未来志向とリスク管理

 普通に考えても、転職先の目星をつけていて、
元の勤め先を円満退社したい従業員であれば、
「元の勤め先の労務管理に関わる事柄」
を進んで話そうとはしません。

(1)退職者の目線

 転職者の目線が、
次の就職先という未来に向いていれば、
個人的な恨みつらみでもない限り、
過去の出来事にこだわるのは時間と労力の無駄です。

 むしろ、職場のドロドロした人間関係に
見切りをつける際、
「立つ鳥跡を濁さず」にしたいからこそ、
「一身上の都合」という円満退社のお守りがある、
と発想を逆さまにしたほうが、

合点しやすいかも知れません。

(2)勤め先の目線

 他方、勤め先としては、
「会社都合による退職」となれば、否が応でも、
労働関連諸法令の規制を受けるため、
「自己都合による退職」の形で落ち着くのであれば、
後々の労使関係トラブルや訴訟のリスクを

避けることができる、という一面もあります。
 特に問題社員が離職するケースであれば、
なおさらでしょう。

 その意味で、「一身上の都合」は、
未来志向の従業員」と「リスク回避の勤め先

との緩衝区域とも言えます。

4 人の評価も十人十色  

 ところで、なぜ、「職場の人間関係」と
「自己都合による退職」が結びつくのでしょうか。

 仮に、ひとたび職場の人間関係がこじれ出すと、
ベテランの管理職でさえ、

それを押し止めるのが精一杯で、
元どおりに修復するなど、無理筋な話です。

 むしろ、手練手管の管理職であれば、
職場の業務全体の流れが滞らないよう、
人間関係を含めて抜かりなく目配せし、

一見、さりげなく業務の指示をしているようで、
人知れず人間関係が順調となるよう
先手を打っていることでしょう。 

 上司や同僚といった職場の人間関係は、
つまるところ、
人の好き嫌いや人の評価の次元に行きつきますが、
その基準ですら十人十色です。

 試しに、上司や同僚をめぐる人の評価について、
上の段は「行動知性」にウェイトを置いた着眼、
下段に向かうに従って、
心情徳性」にウェイトを置いた着眼
にスライドさせてみました。

  •  その人の働き方、執務上の言動や態度
  •  その人自身の素行や性格 
  •  その人からにじみ出る人柄や品性 
  •  その人の核心である人望や徳性  

 おそらく、最初の段を除いて、
「企業の人事・労務管理」としては、
手の付けようがありません。

5 「ブラック」なのは企業か 

 仮に、職場のこじれた人間関係の当事者が、

「 あの上司は、仕事はできると専(もっぱ)らの評判だが、
 身勝手で思いやりがなく、ついていけない。」
「 あの人は、幹部や仲の良い人への外面だけは良いけれど、
 人として信用できない。」

として、相手への人の評価が固まってしまったら、
手の打ちようがありません。

 しかも、これらの内容には、
まだ感情や情緒の要素が含まれていません。

 このレベルでこじれると、
人事・労務管理上の対処としては、
配置換えや定期異動ぐらいで、ついには、
辞めるしか手立てがなくなってしまいます。

 ひとたび職場の人間関係がこじれてしまうと、
自己都合による退職という選択肢は、
意外と身近なものになります。

 ブラック企業」(過酷な労働環境の企業)
という流行語がありますが、
職場の人間関係が原因で辞める従業員の目線
からは、むしろ、「ブラックな職場
上司・同僚など)に映るやも知れません。

6 こじれた人間関係への見切り  

 こうしてみると、「一身上の都合」は、
職場のドロドロした人間関係に見切りをつける
社会生活上の知恵にも映ります。

 もし仮に、「一身上の都合により」の文言が
存在しなければ、従業員と企業との間で、
円満退社の形で幕引きをする際に、
退職願(又は退職届)の文面を、
一言一言すり合わせなければなりません。

 そういう面倒な手間を省くために、
従業員があえて余計なことを言わず、
「一身上の都合により」の文言を書き記すという、
雇用慣行を築き上げた、とも考えられます。

7「あえて玉虫色」の扉 

 もし、職場を「一身上の都合」で去ろうとする
同僚を見かけたら、
・ 本人やその家庭の事情を理由とする場合
・「本人やその家庭の事情を理由」としているが、
 退職理由の本音は「勤め先の労務管理に関わる事柄」であって、
 それでも円満退社を望む場合
を思い起こしてください。

 いずれにせよ、その同僚は、やっとの思いで、
「自己都合による退職」の決断を下したはずです。

 そういう方を見かけたら、戸惑うことなく、
「長い間、誠にお世話になりました。
 新天地において、

 益々のご活躍をされますように。」
と、心を込めて挨拶を交わしましょう。

 ふと、職場を「一身上の都合」で去った
同僚に戸惑いを感じたら、 
あえて玉虫色」という扉を、
やんわり押してみましょう。
 きっと、あなたらしい未来が適(かな)い
始めるに違いありません。

 そろそろ、下船の時間が近づいてきました。
 当航は、最終の定期便となります。
 次のご乗船の機会をお待ちしています。
 それではまた、
近いうちにお会いしましょう。

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