「ふと、」頭をかすめた職場のモヤモヤを、
あなたの知らない扉をそっと押し開けて、
すっきり解消させるブログです。
今夜の話題は…
夜行フェリー(ferry)へのご乗船、
ありがとうございます。
この便は、
「アットホームな職場」号です。
貨物を積み上げ次第、出港いたします。

“at home”を和製に訳して、
「家庭的な」(英語ではcozyとかhomey)
という意味にとらえると、
「アットホームな職場」とは、
「自宅にいるかのようにくつろいで、
気兼ねなく仕事を進められる職場」
ぐらいが穏当でしょう。
この「アットホームな職場」という表現は、
ときどき求人情報誌に現れます。
企業の人事担当者が、
求人情報誌に掲載を依頼する際、
求職者に向けて自社の魅力を訴求するために
書き込む言葉です。
そこで今夜は、フェリーの展望デッキで、
この「アットホームな職場」について、
思いをめぐらしてみましょう。
それでは、出港いたします。

Table of Contents
1 前向きな見方では
例えば昭和の時代、「アットホームな職場」
と聞けば、あっけらかんと、
次のような職場をイメージするかと思います。
- 職場の雰囲気が、いつも和やか。
- ストレスフリーな執務環境。
- 決まったノルマに縛られることなく、
従業員があくせく働いていない。 - 従業員間の出世競争が緩やかなので、
伸び伸びと仕事をしている。 - 長期的なビジョンで、人材の育成が
行われている。 - 上司が、(親や兄姉のように)親身で、
思いやりがある。 - 分からないことがあっても、
上司や同僚(先輩、後輩)に、
気さくに尋ねることができる。
リーマンショック前の金融ビッグバン
(日本版)より前の、牧歌的な昭和の香りが
漂っています。
2 うがった(深読みな)見方からは
ところが、令和の時代ともなると、
主に若い年代層が、「アットホームな職場」
の実態に眼差しを向け、おおむね、
次のような職場をイメージしているようです。
- 職場以前に、企業のビジネスモデルが
整っておらず、企業に魅力がない。 - 本当の家族による経営(同族経営)で、
私用の頼まれ事が多い。 - (勤務日外に催される)社員旅行や
歓送迎会、夏のBBQ、冬の鍋パーティー
などに、参加せざるを得ない。 - 経営者が、従業員の私生活に干渉する。
- サービス残業や付き合い残業がまかり通り、
長時間労働が常態化している。 - 年次有給休暇制度はあるものの、
年次有給休暇を取れる雰囲気でない。
前半部分の社員旅行、旬の親睦会など、
昭和のなごりを彷彿(ほうふつ)とさせる
社内行事で、「24時間働けますか」
のCM当時の心境からすると、
「むしろ、やらないほうが問題視」
されたでしょう。
一方、令和時代の若い従業員からは、
「何をか言わんや」(話にもならない)として、
不評を買うのは、時流なのかも知れません。
3 人事・労務管理の見方になると
ここで目線をずらして、
人事・労務管理の立場から、
眺めてみましょう。
〇 求人情報誌に「アットホームな職場」
とあるので、職場の人間関係が濃いという
ニュアンスは求職者に伝わりますから、
そうした人づき合いを望まない方は
応募しないので、採用時のミスマッチは
起きにくくなります。
〇 社内行事を通じ、
お互いの性格や背景事情を心得て、
ワンチームで組織に貢献してもらえるような
人材を採用したいのかも知れません。
〇 同族経営における私用の依頼は、
服務規律の「職務専念義務」の問題
になるでしょう。
〇 社員旅行やBBQなどの社内行事は、
その参加が会社から強制されたものかどうか、
という「労働時間」へのカウントの問題
となります。
〇 「私生活への干渉」について、
・ 深酒、喫煙、暴飲暴食など、 健康面や
仕事への支障を案じての通常の注意喚起、
・ 企業の名誉を棄損したり、企業が保有する
秘密を漏洩するようなネットへの投稿を
控えるよう 諭(さと)すこと、
・ 勤務時間中の私的な面会や私用メール 等を
諫(いさ)めること
は、社会モラルの範疇として 許されるでしょう。
一方で、恋愛、結婚生活などの様子を
執拗に尋ねたり、興味本位で
他人の私生活を詮索し、職場で吹聴するなどは、
パワーハラスメントの一形態である
「個への侵害」の問題になり得ます。
(参考)『パワハラの旅』「おきてのみやげ」
〇 サービス残業や付き合い残業は、
時間外労働に係る賃金不払いや、
適切な労働時間管理が問題となります。
〇 年次有給休暇については、これまでも、
同僚への気兼ね等の理由から、
取得率が低調であったので、
今般、年10日以上の年次有給休暇が
付与される労働者に対し、
次有給休暇の日数のうち年5日分について、
使用者が時季を指定して取得させること
が義務づけられました。(脚注)
こうしてみると、
「アットホームな職場」について、
うがった(深読みな)見方をした場合、
労務管理上の問題が幾つか見受けられます。
4 法律に登場する「家庭的」
法律の中では、
「アットホーム」という文言は
見当たりませんでしたが、
「家庭的」は、幾つか見つかりました。
例えば、主なものとして、
次の条文があります。
〇 児童福祉法 (昭和22年法律第164号)
第3条の2 国及び地方公共団体は、
児童が家庭において心身ともに健やかに
養育されるよう、児童の保護者を支援
しなければならない。
ただし、児童及びその保護者の心身の状況、
これらの者の置かれている環境その他の状況
を勘案し、児童を家庭において養育することが
困難であり又は適当でない場合にあつては
児童が家庭における養育環境と同様の
養育環境において継続的に養育されるよう、
児童を家庭及び当該養育環境において
養育することが適当でない場合にあつては
児童ができる限り良好な家庭的環境において
養育されるよう、必要な措置を講じなければ
ならない。
ただ本条は、本来の「家庭」を基にした
「家庭的」という用例で、この記事の
「アットホームな」という主旨とは
趣を異にしています。
5「誰の家庭か」という扉
考えるまでもなく、
生まれ育った家庭環境や実社会での経験が
瓜二つの人物は皆無なのですから、
各人が抱く「家庭」のイメージも千差万別です。
そうすると、上記3の
「うがった(深読みな)見方」の項目について、
〇 私生活への干渉では、
「子どもの生活態度や受験への過干渉は、
当然やるべきであるし、
家庭内でのプライバシーは
守る必要はない。」
という家庭像が背景にあるように思えます。
〇 また、サービス残業では、
「家族ひとり一人が、昼夜の別なく、
家庭のために深夜遅くまで働く
(勉強する) ものである。」
という家庭像を、
〇 さらに、付き合い残業では、
「子どもが受験で頑張っている
ときには、 他の家族も、
付き合いで働き続け、休養してはならない。」
という家庭像を前提にしているのでしょう。
千差万別な家庭のイメージがあるにせよ、
上記の3つの家庭像をミックスすると、
指揮命令する側に都合の良い家庭に映ります。
「アットホーム」な職場と言いながら、
私生活への過干渉、働き詰め、勉強三昧
だけの生活は、監視のされている収容施設
のようで、とても「家庭的」と呼べる代物
ではありません。
しかし基本に立ち返って考えてみれば、
それも腑に落ちます。
そもそも、職場という組織は、
指揮命令を行う側とそれを受ける側で
成り立っているので、結局、
指揮命令を行う側に都合の良い家庭
に戻ってしまいます。
ふと、求人情報誌の「アットホームな職場」
が気になったら、
「誰の家庭か」という扉を、
やんわり押してみましょう。
きっと、あなたらしい未来が適(かな)い
始めるに違いありません。
そろそろ、下船の時間が近づいてきました。
当航は、最終の定期便となります。
次のご乗船の機会をお待ちしています。
それではまた、近いうちに
お会いしましょう。

備忘メモ
(注) 年次有給休暇に関連する法令改正の動き等
〇 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
(平成30年法律第71号)第1条により、
労働基準法の一部改正が行われた。
〇 労働基準法 (昭和22年法律第49号) 第39条
〇 平成31年4月1日施行。