「ふと、」頭をかすめた職場のモヤモヤを、
あなたの知らない扉をそっと押し開けて、
すっきり解消させるブログです。
今夜の話題は…
夜行フェリー(ferry)へのご乗船、
ありがとうございます。
この便は、「職場の符丁」号です。
貨物を積み上げ次第、出港いたします。

落語家の符丁(ふちょう)で、
「兄さん」と呼べば「兄弟子」を意味するように、
それぞれの業界や職場には、
独特の言い回しがあったりします。
ただ、同じ業界であっても、
企業ごとに言い回しが少し違うも、
符丁の醍醐味でしょう。
こうした符丁(隠語)は、
顧客への接客マナーの一環であったり、
時には、やや悪事じみた使い方かも知れません。
今回は、ビジネスパーソンが、
業界の符丁を体験する物語風に仕上げてみました。
Table of Contents
職場の符丁
経営学を専攻したAさんは、
専門商社に入社して早3年。
商社らしく、いろいろな業界人と
知り合えることが多かった。
タクシー乗務員の符丁
先日、物流関連のお得意先と、
タクシーに同乗していたとき、
不意にタクシーの無線音が聞こえ、
運転している乗務員さんに、
「 トンネル下の信号付近が工事中です、
注意してください。」
と伝えていた。
「 やっぱり、年末は、どこかしこに道路工事が
多いですね。」
とAさんが言うと、隣のお得意先は、
ちょっと笑いながら、
「 『トンネル下の信号付近で
警察の取締り(検問)中です。』
という意味じゃないかな。」
と話してくれた。
どうも、タクシー業界では、
「工事中」と言えば「取締り」のことで、
本当の工事ならば、「本工事中」と
伝えるらしい。また、
「 高崎駅付近で大きな忘れ物をしたお客様は、
帽子をかぶった小柄な女性で、
赤いスカート柄の…」
などの無線が入れば、さしずめ、
「 県警からの捜査協力として、
逃亡犯の女性が高崎駅付近で目撃され、
その特徴は…」
という情報を伝えているのかも知れない。
医療従事者の符丁
タクシーを降りて、お得意先と別れたAさんは、
幼なじみのお見舞いに、総合病院に入館した。
5階のスタッフ(ナース)ステーションの
看護師さんたちが、
「 そういえば、514号室の患者さん、
昨晩遅くに、ステったんですって。」
「 そうだったの。昨日は私が担当で、
申し送りをしたんだけど…
あっ、これから、エッセンに出かけてきますね。」
と話していた。
この会話を耳にしたAさんは、
「 えっ?患者さんが滑って、昨晩は大騒ぎに
なったんだ。」
と思ったが、後に、入院している幼なじみから、
「 ドイツ語でsterbenとは「死ぬ」、
essenは「食事する」を意味するので、
看護師さんたちは、
『 昨晩、あの患者さんが亡くなったわ。』
『 そうだったの。(エンゼルケア、お疲れさま。)
これから、食事休憩に行きます。』
と話していたんじゃないかな。」
と教えてもらった。
すし職人の符丁
お見舞いを終えたAさんは、出先の奥方と合流し、
少し小腹が空いていたので、
蓮向かいにある、昔ながらの寿司屋に
一緒に入った。
隣のカウンター客が、縁起を担いだのか、
「出世魚の『スズキ』と『小肌』、ちょうだい。」
と、目の前の板さんに注文したところ、
奥の方から大将(板長)らしき人物が、
「やま」
と、太い声で合図をしていた。
いぶかしげに、「山?」
とつぶやくAさんを、横で見つめていた
奥方は、
「 山には海産物がないでしょ。
きっと、ネタ切れなのよ。」
と耳元でささやいた。
「小肌もないか…それじゃ、サワラを
炙ってください。」
と隣のカウンター客が、注文し直すと、
またしても、
「右に兄貴があるよ。」
と、大将が板さんに合図をした。
「寿司屋で「兄貴」と言えば「古いネタ」なので
『右側の古いサワラから炙って。』
という意味だわ。」
小声で翻訳する奥方を見つめながら、Aさんは、
「 いつも高級寿司屋に出かけているのかな?」
と、さらにいぶかしがるのであった。
百貨店の符丁
腹ごしらえが終わったAさんは、
お歳暮の準備を兼ねて、奥方と一緒に、
銀座のほど近い百貨店に入ると、
持ち場の社員さんたちが焦った様子で、
「 五八様なので、ベテランのBさんに
替わってもらわないと…」
と話していた。
「日本には、変わった苗字の方もいるんだね。」
と能天気なAさんに対して、
ややあきれ顔の奥方は、
「『五八様』って、5×8=40で、
始終(しじゅう)来てくれるお客さんだから、
『お得意さんがいらしたので、付き合いの深い、
ベテランのBさんを、呼んでこなくちゃ。』
という意味じゃないかしら。」
Aさんが奥方の知見の広さに感心していると、
場内アナウンスが流れてきた。
「 川中様、川中様、3階5番窓口まで
お越しください。」
ここに至り、さすがにAさんは
奥方のほうを振り向き、
「 買い物をし過ぎて、忘れものをした、
という連絡事項じゃないんでしょ。」
「 あら、勘が冴(さ)えているわね。
『川中様』は「買わなかった客」だから、
『3階5番窓口付近で万引き客があった。』
という緊急通報だわ。」
その日を境に、Aさんは、「職場の符丁」
への関心が冷めていくのを感じました。
実社会の裏舞台って、そんなに愉しい
ものじゃないと気づいてしまったからです。
ただ、翌日以降、Aさんがランチに出かけるとき、
職場の同僚に向かって、
「これから、5番(ご飯)に行かけてきます。」
と伝えるのが習わしになったそうです。
ふと、職場の符丁が気になったら、
「業界特有の裏事情」という扉を、
やんわり押してみましょう。
きっと、あなたらしい未来が適(かな)い
始めるに違いありません。
そろそろ、下船の時間が近づいてきました。
当航は、最終の定期便となります。
次のご乗船の機会をお待ちしています。
