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【第9回】ふと、職場の符丁が気になったら

3 min

 職場のモヤモヤを「すっきり」させるブログ、
職場の扉」のひとときが、めぐってきました。
 MCを務めます、テラボ(terrabo)です。

ふと、」頭をかすめた職場のモヤモヤを、
あなたの知らない扉をそっと押し開けて、
すっきり解消させるブログです。 
 今夜の話題は…

 夜行フェリー(ferry)へのご乗船、
ありがとうございます。
 この便は、「職場の符丁」号です。
 貨物を積み上げ次第、出港いたします。

 落語家の符丁(ふちょう)で、
「兄さん」と呼べば「兄弟子」を意味するように、
それぞれの業界や職場には、
独特の言い回しがあったりします。

 ただ、同じ業界であっても、
企業ごとに言い回しが少し違うも、
符丁の醍醐味でしょう。
 こうした符丁(隠語)は、

顧客への接客マナーの一環であったり、
時には、やや悪事じみた使い方かも知れません。


 今回は、ビジネスパーソンが、

業界の符丁を体験する物語風に仕上げてみました。

職場の符丁 

 経営学を専攻したAさんは、
専門商社に入社して早3年。
 商社らしく、いろいろな業界人と

知り合えることが多かった。

タクシー乗務員の符丁 

 先日、物流関連のお得意先と、
タクシーに同乗していたとき、
不意にタクシーの無線音が聞こえ、
運転している乗務員さんに、

「 トンネル下の信号付近が工事中です、
 注意してください。」

と伝えていた。
「 やっぱり、年末は、どこかしこに道路工事が
 多いですね。」
とAさんが言うと、隣のお得意先は、
ちょっと笑いながら、

「 『トンネル下の信号付近で
 警察の取締り(検問)中です。』
 という意味じゃないかな。」

と話してくれた。
 どうも、タクシー業界では、
「工事中」と言えば「取締り」のことで、
本当の工事ならば、「本工事中」と

伝えるらしい。また、

「 高崎駅付近で大きな忘れ物をしたお客様は、
 帽子をかぶった小柄な女性で、

 赤いスカート柄の…」

などの無線が入れば、さしずめ、

「 県警からの捜査協力として、
 逃亡犯の女性が高崎駅付近で目撃され、

 その特徴は…」

という情報を伝えているのかも知れない。

医療従事者の符丁 

 タクシーを降りて、お得意先と別れたAさんは、
幼なじみのお見舞いに、総合病院に入館した。
 5階のスタッフ(ナース)ステーションの

看護師さんたちが、

「 そういえば、514号室の患者さん、
 昨晩遅くに、ステったんですって。」
「 そうだったの。昨日は私が担当で、
 申し送りをしたんだけど…
 あっ、これから、エッセンに出かけてきますね。」

と話していた。
この会話を耳にしたAさんは、

「 えっ?患者さんが滑って、昨晩は大騒ぎに
 なったんだ。」
と思ったが、後に、入院している幼なじみから、

「 ドイツ語でsterbenとは「死ぬ」、
 essenは「食事する」を意味するので、
 看護師さんたちは、
『 昨晩、あの患者さんが亡くなったわ。』
『 そうだったの。(エンゼルケア、お疲れさま。)
 これから、食事休憩に行きます。』
と話していたんじゃないかな。」

と教えてもらった。

すし職人の符丁 

 お見舞いを終えたAさんは、出先の奥方と合流し、
少し小腹が空いていたので、
蓮向かいにある、昔ながらの寿司屋に

一緒に入った。
 隣のカウンター客が、縁起を担いだのか、


「出世魚の『スズキ』と『小肌』、ちょうだい。」
と、目の前の板さんに注文したところ、
奥の方から大将(板長)らしき人物が、

「やま」

と、太い声で合図をしていた。
 いぶかしげに、「山?」
とつぶやくAさんを、横で見つめていた

奥方は、

「 山には海産物がないでしょ。
 きっと、ネタ切れなのよ。」

と耳元でささやいた。
「小肌もないか…それじゃ、サワラを

 炙ってください。」
と隣のカウンター客が、注文し直すと、
またしても、

「右に兄貴があるよ。」

と、大将が板さんに合図をした。 

「寿司屋で「兄貴」と言えば「古いネタ」なので
『右側の古いサワラから炙って。』
という意味だわ。」

小声で翻訳する奥方を見つめながら、Aさんは、
「 いつも高級寿司屋に出かけているのかな?」
と、さらにいぶかしがるのであった。

百貨店の符丁 

 腹ごしらえが終わったAさんは、
お歳暮の準備を兼ねて、奥方と一緒に、
銀座のほど近い百貨店に入ると、
持ち場の社員さんたちが焦った様子で、

「 五八様なので、ベテランのBさんに
 替わってもらわないと…」

と話していた。
「日本には、変わった苗字の方もいるんだね。」
と能天気なAさんに対して、

ややあきれ顔の奥方は、

「『五八様』って、5×8=40で、
 始終(しじゅう)来てくれるお客さんだから、
 『お得意さんがいらしたので、付き合いの深い、
  ベテランのBさんを、呼んでこなくちゃ。』
 という意味じゃないかしら。」

 Aさんが奥方の知見の広さに感心していると、
場内アナウンスが流れてきた。

「 川中様、川中様、3階5番窓口まで
 お越しください。」 

 ここに至り、さすがにAさんは
奥方のほうを振り向き、
「 買い物をし過ぎて、忘れものをした、
 という連絡事項じゃないんでしょ。」

「 あら、勘が冴(さ)えているわね。
 『川中様』は「買わなかった客」だから、
 『3階5番窓口付近で万引き客があった。』
 という緊急通報だわ。」

 その日を境に、Aさんは、「職場の符丁」
への関心が冷めていくのを感じました。
 実社会の裏舞台って、そんなに愉しい

ものじゃないと気づいてしまったからです。

 ただ、翌日以降、Aさんがランチに出かけるとき、
職場の同僚に向かって、

「これから、5番(ご飯)に行かけてきます。」

と伝えるのが習わしになったそうです。

 ふと、職場の符丁が気になったら、
業界特有の裏事情」という扉を、
やんわり押してみましょう。
 きっと、あなたらしい未来が適(かな)い
始めるに違いありません。

 そろそろ、下船の時間が近づいてきました。
 当航は、最終の定期便となります。
 次のご乗船の機会をお待ちしています。

 

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